この研究でわかったこと(3行まとめ)
- 2020〜2024年に全国105院で行われた顔の糸リフト106,639件を分析し、2種類の糸(PDOとPCL)がどんな人に、何本使われているかを調べました。
- PDO糸は全体の57.2%で、若い人ほど多く使われていました(20歳未満75.7%、70歳以上52.6%)。1回あたりの本数はPDOが平均10.5本、PCLが平均6.6本。
- 5年間で、1回あたりの本数は平均8.3本から9.7本へ増えていました。ただし「どちらの糸が効くか」「どのくらい持つか」を比べた研究ではありません。
「糸リフトには種類があると聞いたけれど、何が違うの?」「何本くらい入れるのが普通?」――この記事では、全国10万件超のデータから、糸の種類と本数が年齢によってどう使い分けられているかを分析した私たちの研究を紹介します。効果を比べた研究ではなく、「実際にどう使われているか」を示す研究です。
論文の基本情報
| 論文タイトル(原題) | Five-Year Trends in Facial Thread-Lift Practice: A Nationwide Cross-Sectional Analysis of 106,639 Cases by Age Group and Thread Material |
|---|---|
| 日本語訳 | 顔の糸リフトにおける5年間の動向:年齢層と糸の素材による106,639例の全国横断解析 |
| 掲載誌 | Aesthetic Plastic Surgery(国際美容外科学会 ISAPS の公式学術誌) |
| 掲載 | 2025年10月 オンライン公開/2026年 第50巻3号 786–794ページ |
| 著者 | Kohki Okumura(奥村公貴・筆頭著者), Takahiko Tamura, Yusuke Funakoshi, Hiroo Teranishi |
| 研究デザイン | 後ろ向き横断研究(多施設) |
| 対象 | 2020年1月〜2024年12月に全国105院で顔の糸リフトを受けた106,639人 |
| DOI | 10.1007/s00266-025-05302-z |
なぜこの研究を行ったのか
糸リフトに使う溶ける糸には、主にPDO(ポリジオキサノン)とPCL(ポリカプロラクトン)があります。PDOは最初の引き上げる力が強く、半年〜8か月ほどで吸収されます。PCLは弾力があり、1年〜1年半かけてゆっくり溶けながらコラーゲンを作る働きがあるとされます。素材の性質は実験で調べられていますが、実際の診療で「誰に、どちらを、何本」使われているかを大規模に調べた研究はありませんでした。
どのように調べたのか
- データ:全国105院の電子カルテから、年齢・性別・糸の種類・本数がそろっている106,639件。コグ付きのPDO糸またはPCL糸のどちらか一方だけを使った施術に限定し、両方を混ぜた例は除きました。
- 分析:年齢層(20歳未満〜70歳以上の7区分)ごとの糸の種類の割合、本数の違い、5年間の月ごとの推移。二元配置分散分析と重回帰分析で、糸の種類と年齢が本数にどう関係するかを調べました。
結果

- 糸の種類:PDO 57.2%(60,991件)、PCL 42.8%(45,634件)。平均年齢はPDO 41.2歳、PCL 42.6歳。
- 年齢との関係:PDOの割合は20歳未満で75.7%、20代58.6%、30代60.0%、40代57.9%、50代55.1%、60代53.3%、70歳以上52.6%。若いほどPDO、年齢が上がるほどPCLが増える傾向でした。
- 本数:PDOは平均10.5本(中央値10本)、PCLは平均6.6本(中央値6本)。どの年齢層でもPDOのほうが本数が多く、30代ではPDO約12本、PCL約6本でした。
- 5年間の推移:PDOの割合は約57%前後で推移し、2021年後半〜2023年前半には60%を超えました。1回あたりの平均本数は2020年初めの8.3本から2024年末の9.7本へ増えました。
- 性別:20代と30代では女性のほうがPDOを選ぶ割合がわずかに高い(20代:女性59.0%、男性56.2%)程度で、大きな差はありませんでした。
患者さんにとっての意味
この研究が示しているのは、糸の種類と本数は「どちらが良いか」ではなく、年齢と目的によって使い分けられているということです。若い方の輪郭づくりには引き上げる力の強いPDOを多めに、年齢が上がってたるみが主な悩みになるとPCLを少なめに、という傾向が、10万件のデータにはっきり表れていました。
カウンセリングで糸の種類や本数を提案されたとき、「自分の年齢と悩みに対して、この選択は一般的なのか」を考える材料になります。たとえば50代の方にPDOを15本以上という提案は、この研究の平均からはかなり外れています。ただし、本数が多いほど合併症が増えること、年齢が高く本数が多い人ほど「物足りない」と感じやすいことは、別の研究で示されています。「多ければ良い」ではないことは覚えておいてください。
この研究の限界
- 効果や持続期間は調べていない:「どう使われているか」の研究であって、「どちらが効くか」の研究ではありません。
- 合併症や満足度のデータは含まない。
- 医師の経験、施術部位、糸のメーカーは考慮していない。
- PDOとPCLを併用した例は除外:実際の診療では併用もあるため、その分だけ実態と差があります。
- コロナ禍の影響:期間の一部がコロナ禍と重なっており、需要の変化と切り分けられていません。
施術に伴う主なリスク・副作用
糸リフト:腫れ、内出血、痛み、皮膚のひきつれ・凹凸、左右差、糸の露出・透け、感染、神経の損傷によるしびれや表情の左右差、アレルギー反応、効果が物足りない・持続期間が短いことなどがあります。
※効果や経過には個人差があります。
原著論文
Okumura K, Tamura T, Funakoshi Y, Teranishi H. Five-Year Trends in Facial Thread-Lift Practice: A Nationwide Cross-Sectional Analysis of 106,639 Cases by Age Group and Thread Material. Aesthetic Plast Surg. 2026;50(3):786-794. doi:10.1007/s00266-025-05302-z(PubMed)
本記事は、学術論文の内容を一般の方向けに解説したものであり、特定の施術を推奨するものではありません。施術の適否は医師の診察のうえで判断してください。
執筆:奥村公貴(美容外科医・本論文筆頭著者)/最終更新:2026年10月26日

