静脈麻酔中、手術のことは覚えている?135人に聞いた満足度と記憶

この研究でわかったこと(3行まとめ)

  • 2025年5月に1つのクリニックで静脈麻酔を受けた連続135人を前向きに調べ、満足度、手術中の記憶、回復時間を評価しました。
  • 重い心肺の合併症は0件。満足度は5段階で中央値5、68.1%が最高の「5」をつけました。回復時間の中央値は22分。
  • 手術中の記憶は、「まったくない」38.5%、「麻酔の導入・覚醒時だけ」47.4%、「手術中も覚えている」14.1%。体重あたりのプロポフォール量が多いほど、手術中の記憶が残りにくいという結果でした。

「静脈麻酔中は本当に眠っているの?」「途中で目が覚めたりしない?」――4,397件の安全性のデータでは合併症を調べましたが、「患者さん自身がどう感じたか」はわかりません。この記事では、満足度と記憶を前向きに聞いた研究を紹介します。私は共著者として関わりました。

目次

論文の基本情報

論文タイトル(原題)Safety of Depth-Adjusted Intravenous Anesthesia in Office-Based Aesthetic Surgery: A One-Month Prospective Study of 135 Consecutive Cases
日本語訳美容外科クリニックにおける深度調整型静脈麻酔の安全性:連続135例の1か月前向き研究
掲載誌Aesthetic Plastic Surgery(国際美容外科学会 ISAPS の公式学術誌)
掲載2026年5月 オンライン公開/2026年 第50巻15号 6548–6554ページ
著者Keisuke Matsumura, Takahiko Tamura, Kohki Okumura(奥村公貴・共著者), Reiko Kiuchi, Hiroo Teranishi
研究デザイン前向き観察研究(1施設)
対象2025年5月1〜31日に静脈麻酔で美容外科手術を受けた連続135人
DOI10.1007/s00266-026-05922-z

なぜこの研究を行ったのか

静脈麻酔の安全性は大規模な記録で示されていますが、患者さんの満足度、手術中の記憶、回復時間といった「患者さんの側から見た結果」を、統一した手順のもとで前向きに調べたデータはほとんどありませんでした。

どのように調べたのか

  • 対象:2025年5月の1か月間に静脈麻酔を受けた成人135人全員。
  • 麻酔:UMEDAプロトコル(鎮静の深さを体重と手術内容に応じて調整する施設独自の手順)。プロポフォール133人、アレルギーのためミダゾラム2人。血圧・心拍・酸素飽和度を5分ごとに記録。
  • 評価:主要:満足度(5段階)。副次:手術中の記憶(なし/導入・覚醒時のみ/手術中も)、回復時間、重い心肺合併症。
  • 統計:「満足度5」と「手術中の記憶あり」のそれぞれについて、年齢・性別・手術時間・薬の量などとの関係を多変量ロジスティック回帰で分析。

結果

手術中の記憶:なし38.5%、導入・覚醒時のみ47.4%、手術中も覚えている14.1%
手術中の記憶の分布(135人)。原著論文の抄録のデータをもとに作図。
  • 重い心肺合併症:0件。
  • 満足度:中央値5(四分位範囲4〜5)。68.1%が「5」。
  • 手術中の記憶:なし38.5%、導入・覚醒時のみ47.4%、手術中も覚えている14.1%。
  • 回復時間:中央値22分(13〜36分)。
  • 満足度に関係した要因:女性は「5」をつける確率が高い(調整オッズ比3.31)。年齢、手術時間、回復時間、薬の量は関係なし。
  • 記憶に関係した要因:体重あたりのプロポフォール量が多いほど、手術中の記憶が残る確率が低い(調整オッズ比0.07)。

患者さんにとっての意味

静脈麻酔は「完全に意識がなくなる全身麻酔」ではありません。この研究では、7人に1人(14.1%)が手術中のことを何らかの形で覚えていました。これは異常ではなく、「呼びかけに反応する程度の深さ」を目標にする静脈麻酔の性質です。呼吸を自分でできる深さに保つことが、安全性の裏付けでもあります。

「絶対に何も覚えていたくない」という方は、カウンセリングでそのように伝えてください。鎮静の深さは調整できますが、深くするほど呼吸抑制のリスクは上がるため、どこまで深くするかは医師との相談になります。また、満足度は高いものの、記憶が残った方の満足度が低かったかどうかは、この研究の抄録からは読み取れません。

この研究の限界

  • 1施設・1か月・135人:人数が少なく、まれな合併症を検出するには足りません。合併症の頻度は4,397件の研究のほうが参考になります。
  • 盲検化なし:満足度を聞いたのが治療側であれば、高めに答える傾向(社会的望ましさバイアス)が入る可能性があります。
  • 施設独自の手順:UMEDAプロトコルを使わない施設にはあてはまりません。
  • 本記事は原著論文の抄録(要旨)をもとに作成しています。

施術に伴う主なリスク・副作用

静脈麻酔:呼吸の抑制、血圧の低下または上昇、吐き気、ふらつき、点滴部位の痛みや血管痛、一時的な興奮や混乱、手術中の記憶が残ること、アレルギー反応などがあります。まれに、呼吸や心臓に関わる重い合併症が起こることがあります。麻酔当日は車の運転や重要な判断を避ける必要があります。

※効果や経過には個人差があります。

原著論文

Matsumura K, Tamura T, Okumura K, Kiuchi R, Teranishi H. Safety of Depth-Adjusted Intravenous Anesthesia in Office-Based Aesthetic Surgery: A One-Month Prospective Study of 135 Consecutive Cases. Aesthetic Plast Surg. 2026;50(15):6548-6554. doi:10.1007/s00266-026-05922-z(PubMed)

本記事は、学術論文の内容を一般の方向けに解説したものであり、特定の施術を推奨するものではありません。施術の適否は医師の診察のうえで判断してください。
執筆:奥村公貴(美容外科医・本論文共著者)/最終更新:2026年10月26日

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