この研究でわかったこと(3行まとめ)
- 1つの美容外科クリニックで2020年11月〜2024年12月に静脈麻酔(点滴で眠る麻酔)を使って行った4,397件の手術を調べました。
- 挿管や心停止といった重い心肺の合併症は0件(95%信頼区間0〜0.08%)。血圧上昇で降圧薬を使ったのが1.0%、興奮状態で麻酔を中止したのが0.55%、回復に30分以上かかったのが1.7%で、全員が当日帰宅しました。
- ただし、対象は健康な方(ASA分類Ⅰ〜Ⅱ)に限られています。持病のある方にそのままあてはまる数字ではありません。
「美容外科の手術で使う静脈麻酔は安全?」「麻酔科医がいないクリニックで大丈夫?」――美容外科では、麻酔科医ではなく手術をする医師が静脈麻酔を管理することが多く、その安全性を大規模に示したデータは少ないのが実情でした。この記事では、4,397件の記録を調べた研究を紹介します。私は共著者として関わりました。
論文の基本情報
| 論文タイトル(原題) | Safety Profile of 4,397 Consecutive Intravenous Sedations in Office-Based Esthetic Surgery: A Single-Center Retrospective Audit |
|---|---|
| 日本語訳 | 美容外科クリニックにおける連続4,397件の静脈麻酔の安全性プロファイル:単施設後ろ向き監査 |
| 掲載誌 | Aesthetic Plastic Surgery(国際美容外科学会 ISAPS の公式学術誌) |
| 掲載 | 2025年11月25日 オンライン公開/第49巻24号 6967–6973ページ |
| 著者 | Keisuke Matsumura, Takahiko Tamura, Kohki Okumura(奥村公貴・共著者), Yusuke Funakoshi, Hiroo Teranishi |
| 研究デザイン | 後ろ向き監査(1施設) |
| 対象 | 2020年11月〜2024年12月に静脈麻酔で行った4,397件 |
| DOI | 10.1007/s00266-025-05478-4 |
なぜこの研究を行ったのか
美容外科の手術の多くは、全身麻酔ではなく、点滴で眠る「静脈麻酔」で行われます。入院の必要がなく、回復が早いためです。ただ、民間クリニックでの静脈麻酔の安全性を、数千件規模で示したデータはほとんどありませんでした。
どのように調べたのか
- 対象:全身状態が良好な方(ASA分類Ⅰ〜Ⅱ:健康か、軽い持病がコントロールされている状態)に限定。
- 麻酔:プロポフォールが第一選択(4,366件、99.3%)。卵・大豆アレルギーの方にはミダゾラム(31件、0.7%)。
- モニタリング:心電図、血圧、酸素飽和度(90%でアラーム)。鎮静の深さは「呼びかけに反応する」程度(MOAA/Sスコア2〜3)を目標に、体重に応じて調整。
- 評価項目:主要:挿管や心停止などの重い心肺合併症。副次:降圧薬の使用、興奮状態による麻酔中止、回復の遅れ(30分超)、予定外の入院。
結果

- 対象の特徴:女性89.7%、年齢の中央値39歳。年間件数は2020年41件→2024年1,753件。複数の手術を同時に行う割合は6.5%→86.5%に増加。
- 重い心肺合併症:0件(95%信頼区間0〜0.08%)。
- 血圧上昇で降圧薬を使用:44件(1.0%)。酸素投与が必要になった人はいませんでした。
- 興奮状態(奇異反応)で麻酔を中止:24件(0.55%)。
- 回復に30分以上:75件(1.7%)。全員が当日帰宅。
- 予定外の入院:0件。
患者さんにとっての意味
健康な方に対して、モニタリングと鎮静の深さの管理を徹底した条件では、静脈麻酔は非常に安全に行えることを示したデータです。4,397件で重い合併症がゼロという結果は、国際的な基準と比べても高い水準です。
ただし、この数字には前提があります。持病のある方(ASA分類Ⅲ以上)は対象に含まれていません。心臓や呼吸器の病気がある方、重い肥満の方、睡眠時無呼吸のある方は、同じ安全性が保証されるわけではありません。カウンセリングで持病や服用薬を正確に伝えることが、この安全性の前提条件です。また、「95%信頼区間0〜0.08%」は、「起きる確率は最大でも1,250件に1件程度」という意味であり、ゼロが証明されたわけではありません。
この研究の限界
- 1施設・後ろ向き:記録に残っていない軽い問題が見落とされている可能性があります。
- 健康な方のみ:持病のある方にはあてはまりません。
- 満足度や術中の記憶は評価していない:これらは別の前向き研究で調べられています。
- 本記事は原著論文の抄録(要旨)をもとに作成しています。
施術に伴う主なリスク・副作用
静脈麻酔:呼吸の抑制、血圧の低下または上昇、吐き気、ふらつき、点滴部位の痛みや血管痛、一時的な興奮や混乱、アレルギー反応などがあります。まれに、呼吸や心臓に関わる重い合併症が起こることがあります。麻酔当日は車の運転や重要な判断を避ける必要があります。
※効果や経過には個人差があります。
原著論文
Matsumura K, Tamura T, Okumura K, Funakoshi Y, Teranishi H. Safety Profile of 4,397 Consecutive Intravenous Sedations in Office-Based Esthetic Surgery: A Single-Center Retrospective Audit. Aesthetic Plast Surg. 2025;49(24):6967-6973. doi:10.1007/s00266-025-05478-4(PubMed)
本記事は、学術論文の内容を一般の方向けに解説したものであり、特定の施術を推奨するものではありません。施術の適否は医師の診察のうえで判断してください。
執筆:奥村公貴(美容外科医・本論文共著者)/最終更新:2026年10月26日

