ヒアルロン酸の重い合併症はどのくらい起きる?29万部位の分析でわかった頻度と部位

この研究でわかったこと(3行まとめ)

  • 全国の美容外科グループで2020年10月〜2024年4月に行われた顔のヒアルロン酸注入290,307部位(209,083人)のうち、重い合併症は12件でした。発生率は0.0041%、約2万4千部位に1件です。
  • 12件の内訳は、血管閉塞(ヒアルロン酸が血管に入って血流を止めること)が10件、感染が2件。血管閉塞10件のうち8件は額への注入でした。
  • 「まれ」ではありますが、ゼロではありません。特に額・眉間・鼻への注入は、血管閉塞のリスクが相対的に高い部位です。

「ヒアルロン酸で失明することがあると聞いたけれど、どのくらいの確率?」――これはカウンセリングで必ず説明すべきことですが、「ごくまれ」という言葉だけでは判断できません。この記事では、29万部位という規模で重い合併症の頻度を調べた研究を紹介します。私は共著者として関わりました。

目次

論文の基本情報

論文タイトル(原題)Serious Complications of Hyaluronic Acid Fillers—A Retrospective Study of 290,307 Cases
日本語訳ヒアルロン酸フィラーの重篤な合併症:290,307例の後ろ向き研究
掲載誌Annals of Plastic Surgery
掲載2025年6月/第94巻6号 630–633ページ
著者Takahiko Tamura, Taichi Tamura, Kohki Okumura(奥村公貴・共著者), Yusuke Funakoshi, Hiroo Teranishi
研究デザイン後ろ向き研究(多施設)
対象2020年10月〜2024年4月の顔のヒアルロン酸注入209,083人・290,307部位
DOI10.1097/SAP.0000000000004327

なぜこの研究を行ったのか

ヒアルロン酸注入は安全性の高い施術とされていますが、ごくまれに、感染や、血管の中にヒアルロン酸が入って血流が止まる「血管閉塞」が起こります。血管閉塞は皮膚の壊死や、目の血管に及べば失明につながる重大な合併症です。ただし、同じ手順で大量の症例を扱う施設で、実際の頻度を調べた研究はありませんでした。

どのように調べたのか

  • データ:全国の美容外科グループのデータベースから、2020年10月〜2024年4月の顔のヒアルロン酸注入290,307部位を抽出。
  • 重い合併症の定義:感染と血管閉塞。
  • 解析:該当した12件について、部位と種類を集計。

結果

重い合併症12件の内訳。額の血管閉塞8件、ほうれい線と鼻の血管閉塞各1件、あごとほうれい線の感染各1件
重い合併症12件の内訳。原著論文の抄録のデータをもとに作図。
  • 発生率:12件/290,307部位=0.0041%。
  • 血管閉塞:10件。額8件、ほうれい線1件、鼻1件。
  • 感染:2件。あご1件、ほうれい線1件。
  • 転帰:同じデータベースを用いた別の論文によれば、12件はすべてヒアルロニダーゼ(ヒアルロン酸を溶かす薬)、抗菌薬、ステロイドで治療され、治療完了まで経過観察されました。

患者さんにとっての意味

ヒアルロン酸の重い合併症は、約2万4千部位に1件です。日本で年間数十万部位が注入されていることを考えると、「自分には起きない」と言い切れる数字ではありません。一方で、標準化された手順と解剖の教育を徹底した環境では、この水準まで下げられることも示しています。

特に注意してほしいのは、血管閉塞10件のうち8件が額だったことです。額・眉間・鼻は、目に向かう血管とつながる血管が走っているため、血管閉塞が起きたときに視力に影響する可能性がある部位です。これらの部位への注入を検討している方は、「血管閉塞が起きたときにすぐヒアルロニダーゼで対応できる体制があるか」を確認してください。それが用意されていない施設で額や鼻にヒアルロン酸を入れるのは、合理的な選択ではありません。

この研究の限界

  • 1つの医療グループのデータ:手順が標準化されたグループの数字であり、他の施設にそのままあてはまるとは限りません。
  • 軽い合併症は含まない:しこり、腫れ、左右差などの頻度はこの研究では扱っていません。
  • 合併症の見落とし:他院で治療を受けた場合など、データベースに記録されていない合併症がある可能性があります。
  • 本記事は原著論文の抄録(要旨)をもとに作成しています。

施術に伴う主なリスク・副作用

ヒアルロン酸注入:腫れ、内出血、痛み、しこり、左右差、凹凸、注入部位のかゆみや赤み、感染、アレルギー反応などがあります。まれに、血管内に入ることで皮膚の壊死や、額・鼻・眉間への注入では失明につながる血管閉塞が起こることがあります。

※効果や経過には個人差があります。

原著論文

Tamura T, Tamura T, Okumura K, Funakoshi Y, Teranishi H. Serious Complications of Hyaluronic Acid Fillers—A Retrospective Study of 290,307 Cases. Ann Plast Surg. 2025;94(6):630-633. doi:10.1097/SAP.0000000000004327(PubMed)

本記事は、学術論文の内容を一般の方向けに解説したものであり、特定の施術を推奨するものではありません。施術の適否は医師の診察のうえで判断してください。
執筆:奥村公貴(美容外科医・本論文共著者)/最終更新:2026年10月26日

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