この研究でわかったこと(3行まとめ)
- PDO(ポリジオキサノン)糸リフトを受けた2,000人を分析したところ、何らかの合併症が起きた人は12.4%でした。最も多いのは皮膚のひきつれ(6.35%)、次いで左右差(2.9%)、痛み(1.75%)です。
- 合併症のリスクは、糸が1本増えるごとに約12%ずつ上がり、年齢が高いほど上がりました(30歳未満6.0%→60歳以上29.5%)。
- 年齢と糸の本数だけで合併症のリスクを点数化する簡単な指標を作りました。ただし入院や再手術が必要になるような重い合併症は、2,000人の中にはいませんでした。
「糸リフトって、トラブルはどのくらいあるの?」「本数が多いほど効果が高いと聞いたけれど、リスクは?」――糸リフトは手軽な印象がありますが、合併症の報告は研究によって5%から60%以上までばらつきがあり、はっきりした数字がありませんでした。この記事では、全国105院の2,000例から合併症の頻度と、起きやすい人の条件を調べた私たちの研究を紹介します。
論文の基本情報
| 論文タイトル(原題) | Incidence and Predictors of Complications After Polydioxanone Thread Lift: A Multicenter Retrospective Cohort Study |
|---|---|
| 日本語訳 | PDO糸リフト後の合併症の発生率と予測因子:多施設後ろ向きコホート研究 |
| 掲載誌 | Aesthetic Plastic Surgery(国際美容外科学会 ISAPS の公式学術誌) |
| 掲載 | 2026年6月 オンライン公開/2026年 第50巻13号 4857–4865ページ |
| 著者 | Kohki Okumura(奥村公貴・筆頭著者), Takahiko Tamura, Yusuke Funakoshi, Hiroo Teranishi |
| 研究デザイン | 多施設・後ろ向きコホート研究 |
| 対象 | 2020年11月〜2023年12月に全国105院でPDO糸リフトを受けた44,282人から無作為に選んだ2,000人 |
| DOI | 10.1007/s00266-026-05963-4 |
なぜこの研究を行ったのか
糸リフトは、とげ(コグ)のついた溶ける糸を皮膚の下に通して、たるみを引き上げる施術です。切らずにできてダウンタイムが短いため、世界的に広がっています。ただ、合併症がどのくらい起きるのか、どんな人に起きやすいのかは、小規模な研究が多く、信頼できる数字がありませんでした。また、施術前にリスクを客観的に見積もる方法もありませんでした。
どのように調べたのか
- 対象:全国105院の糸リフト106,639件のうちPDO糸を使った60,991件から、年齢・性別・本数・経過の記録がそろっている44,282件を抽出し、解析に関わらない第三者が2,000件を無作為に選びました。
- 施術:すべてPDO糸。こめかみと耳の前から糸を入れる、グループ共通の方法。
- 合併症の定義:医師が診察で確認し、何らかの対応が必要だったもの。皮膚のひきつれ、左右差、持続する痛み、糸の露出、腫れ、感染、神経の損傷、じんましんなど。
- 経過観察:1週間、1か月、3か月、6か月、12か月に来院する予定(ただし実際の来院は人によって差がありました)。
- 統計:多変量ロジスティック回帰(年齢と本数の影響を同時に見る方法)と、ROC解析(指標の当たりやすさを評価する方法)。
結果
平均年齢38.8歳(17〜81歳)、女性93.8%、糸の本数は平均10.2本(1〜20本)でした。
- 合併症全体:12.4%(247人)。内訳は、皮膚のひきつれ6.35%、左右差2.90%、痛み1.75%、糸の露出0.60%、腫れ0.25%、感染0.20%、神経の損傷0.20%、耳下腺の損傷0.05%、じんましん0.05%。
- 重い合併症:入院や修正手術が必要になった例はありませんでした。
- 糸の本数:1本増えるごとに合併症のオッズが1.12倍(95%信頼区間1.09–1.15)。
- 年齢:40歳未満と比べて、40代で2.14倍、50代で3.38倍、60歳以上で5.08倍。
- 性別:影響なし。

リスクの点数化:糸1本につき1点、40代は+2点、50代は+4点、60歳以上は+5点として合計します。合計9点以上の人は、合併症が起きた人の90.3%を含んでいました(ただし起きなかった人の約半分も9点以上になるため、「要注意の目安」として使う指標です)。
患者さんにとっての意味
糸リフトの合併症は「ほとんどない」わけではなく、8人に1人程度には何かが起きます。ただしその多くは皮膚のひきつれや左右差など、時間とともに落ち着くか、対応できるものです。重い合併症は2,000人の中では起きていません。
大事なのは、「本数を増やせば効果が上がる」という発想には代償があるということです。本数は合併症のリスクに直結します。特に50代以上の方は、同じ本数でも若い方より合併症が起きやすいため、本数を控えめにする、糸リフトだけに頼らず別の方法と組み合わせる、といった設計が現実的です。カウンセリングで本数を提案されたら、「その本数の根拠は何か」を聞いてみてください。
この研究の限界
- 記録がそろっている人だけを対象にした:経過をきちんと記録できた人に偏っている可能性があり、合併症の割合が実際より高く、または低く出ているかもしれません。
- 喫煙・糖尿病などの情報がない:電子カルテの必須項目でなかったため解析できず、持病のある方にはこの点数をそのまま使えません。
- 12か月の来院は人によってばらつき:遅れて出る合併症を見逃している可能性があります。
- 合併症の重さを区別していない:軽いひきつれも神経の損傷も「1件」として数えています。
- 効果や満足度は評価していない:リスクだけの研究で、「どのくらい上がったか」はわかりません。
施術に伴う主なリスク・副作用
糸リフト:腫れ、内出血、痛み、皮膚のひきつれ・凹凸、左右差、糸の露出・透け、感染、神経の損傷によるしびれや表情の左右差、耳下腺の損傷、アレルギー反応、効果が物足りない・持続期間が短いことなどがあります。
※効果や経過には個人差があります。
原著論文
Okumura K, Tamura T, Funakoshi Y, Teranishi H. Incidence and Predictors of Complications After Polydioxanone Thread Lift: A Multicenter Retrospective Cohort Study. Aesthetic Plast Surg. 2026;50(13):4857-4865. doi:10.1007/s00266-026-05963-4(PubMed)
本記事は、学術論文の内容を一般の方向けに解説したものであり、特定の施術を推奨するものではありません。施術の適否は医師の診察のうえで判断してください。
執筆:奥村公貴(美容外科医・本論文筆頭著者)/最終更新:2026年10月26日

