あご下の脂肪吸引、術後の腫れは減らせる?フィブリン糊のランダム化比較試験でわかったこと

この研究でわかったこと(3行まとめ)

  • あご下の脂肪吸引を受けた29人を、くじ引きで「フィブリン糊を使う15人」と「使わない14人」に分けて比べました。
  • 手術直後から1週間後までの体積の変化は、使った人たちで平均−18.1mL(腫れが引いた)、使わなかった人たちで平均+18.5mL(腫れが増えた)で、統計的にはっきりした差がありました(p<0.001)。
  • ただし29人・1施設・女性のみ・1週間までの研究です。内出血や血腫などの合併症を減らせるかどうかは、今回の研究では確かめられていません。

「あご下の脂肪吸引をしたいけれど、腫れはどのくらい続くの?」「腫れを少しでも抑える方法はないの?」――カウンセリングで、とてもよく受けるご質問です。この記事では、手術の最後にフィブリン糊(フィブリンシーラント)という医薬品を使うと術後の腫れが変わるのかを、くじ引きで2つのグループに分けて比べた私たちの研究をご紹介します。

目次

論文の基本情報

論文タイトル(原題)Efficacy of Fibrin Sealant in Submental Liposuction: A Prospective Randomized Study
日本語訳あご下の脂肪吸引におけるフィブリン糊の効果:前向きランダム化研究
掲載誌Aesthetic Plastic Surgery(国際美容外科学会 ISAPS の公式学術誌)
掲載2024年12月 オンライン公開/2025年 第49巻11号 2880–2886ページ
著者Kohki Okumura(奥村公貴・筆頭著者), Takahiko Tamura, Yusuke Funakoshi, Hiroo Teranishi
研究デザイン前向きランダム化比較試験(1施設)
対象2024年2月〜8月にあご下の脂肪吸引を受けた29人
DOI10.1007/s00266-024-04615-9

なぜこの研究を行ったのか

脂肪吸引は、世界で最も多く行われている美容外科手術です。国際美容外科学会(ISAPS)の統計では、2022年に世界で230万件以上行われました。比較的シンプルな手術ですが、手術中や手術後の出血が原因となって血腫(皮膚の下に血液がたまること)ができるなど、重い合併症が起こった報告もあります。

術後の腫れを抑える方法としては、圧迫用のフェイスバンド、マッサージ、冷却、炎症を抑える薬などが使われてきました。ただ、これらは外から働きかける方法で、脂肪を吸引した「すき間」そのものに直接作用するものではありません。

そこで注目したのがフィブリン糊です。血液が固まるときの最後の段階(フィブリノゲンという成分がトロンビンという酵素の働きで「フィブリン」という網目状の塊になる反応)を再現する医薬品で、止血や組織どうしの接着を目的に、外科の分野では長く使われてきました。吸引したすき間にこれを広げれば、にじみ出るような出血を抑え、組織を落ち着かせて、腫れも減らせるのではないか――それを確かめたのが今回の研究です。

どのように調べたのか

  • グループ分け:29人をくじ引きで1対1に振り分け、フィブリン糊を使うグループ(15人)と使わないグループ(14人)を作りました。くじ引きで分けることで、「腫れにくそうな人を片方に集めてしまう」といった偏りを避けられます。
  • 手術:両耳たぶの下にある小さな穴から吸引しました。フィブリン糊を使うグループでは、吸引後に左右の穴から1.5mLずつ(合計3mL)を注入し、ガーゼであご下全体に均一に広げ、約1分間押さえて固めました。
  • 術後のケア:マッサージ、圧迫用のフェイスバンドなど、術後の過ごし方は両グループで同じにしました。
  • 腫れの測り方:3D画像解析装置(VECTRA)で、手術直後と1週間後(抜糸のとき)のあご下の体積を測り、その差を比べました。見た目の印象ではなく、mL単位の数字で評価しています。
  • 統計:2つのグループの平均値の差が偶然で説明できるかを、t検定という方法で調べました。

結果

年齢(平均31〜33歳)、手術中の血圧、身長・体重・BMIには、2つのグループの間で統計的な差はありませんでした。参加者は全員女性で、持病や服用中の薬がある人はいませんでした。

手術直後から1週間後までの体積の変化は、次のとおりです。

  • フィブリン糊あり(15人):平均 −18.1mL(腫れが引いた)
  • フィブリン糊なし(14人):平均 +18.5mL(腫れが増えた)
  • 2つのグループの差は約37mLで、偶然では説明しにくい差でした(p<0.001)。
あご下脂肪吸引後1週間の体積変化。フィブリン糊あり群は平均マイナス18.1mL、なし群は平均プラス18.5mL
手術直後から1週間後までの体積変化(平均±標準誤差)。原著論文のデータをもとに作図。

フィブリン糊を使わなかったグループでは、腫れが吸引した場所そのものではなく、首の下のほうに移動してたまっているケースがよく見られました。重力で腫れが下がってくるためと考えられます。なお、感染や血腫などの合併症は、どちらのグループにも起こりませんでした。

患者さんにとっての意味

この研究からいえるのは、あご下の脂肪吸引の最後にフィブリン糊を使うと、術後1週間の腫れが少なくなる可能性があるということです。術後1週間は、マスクで隠せるか、仕事や予定に戻れるかを左右する時期なので、ダウンタイムを短くしたい方にとっては検討する価値のある選択肢です。

一方で、次の点は今回の研究では示されていません。

  • 仕上がり(最終的なフェイスライン)が良くなるか:評価したのは1週間後の腫れまでです。
  • 血腫などの合併症を防げるか:今回は両グループとも合併症がゼロだったため、比べることができませんでした。
  • 男性や持病のある方、薬を飲んでいる方にも同じ効果があるか:参加者は全員、健康な女性でした。

また、フィブリン糊は高価な医薬品のため、使う場合は費用が上乗せされます。腫れを抑えられる見込みと費用・リスクを比べたうえで、診察で医師と相談して決めるのが現実的です。

この研究の限界

  • 人数が少なく、1施設のみ:29人という規模のため、ほかの施設や、より多くの患者さんで同じ結果になるかは確認が必要です。
  • どちらのグループかを伏せていない:患者さんも評価する側も、フィブリン糊を使ったかどうかを知っていました。数値は3D画像で客観的に測っていますが、思い込みによる影響(バイアス)を完全には否定できません。
  • 観察期間が1週間:その後の経過、痛み、満足度は評価していません。
  • 吸引した脂肪の量に差が出ている可能性:平均で21.4g(あり)と28.7g(なし)。統計的な差ではありませんでしたが(p=0.09)、吸引量の違いが腫れに影響した可能性は残ります。
  • ほかのフィブリン糊製品とは比べていない:今回使ったのは1種類の製品のみです。

施術に伴う主なリスク・副作用

あご下の脂肪吸引:腫れ、内出血、痛み、むくみ、つっぱり感、感覚の鈍さ、皮膚の凹凸や左右差、血腫、感染などが起こることがあります。腫れや内出血は通常、数週間かけて落ち着きます。

フィブリン糊:成分の一つであるアプロチニンに対するアレルギー反応(まれにアナフィラキシー)の報告があります。また、ヒトの血液を原料とする製剤のため、ウイルスを不活化する処理は行われていますが、感染症がうつる危険性を理論上完全にゼロにすることはできません。

※効果や経過には個人差があります。

原著論文

Okumura K, Tamura T, Funakoshi Y, Teranishi H. Efficacy of Fibrin Sealant in Submental Liposuction: A Prospective Randomized Study. Aesthetic Plast Surg. 2025;49(11):2880-2886. doi:10.1007/s00266-024-04615-9(PubMed)

本記事は、学術論文の内容を一般の方向けに解説したものであり、特定の施術を推奨するものではありません。施術の適否は医師の診察のうえで判断してください。
執筆:奥村公貴(美容外科医・本論文筆頭著者)/最終更新:2026年10月26日

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